パナメーララビリンス。思考のギヤが、さらに一段跳ね上がる

パナメーラ「4 E-ハイブリッド」の完成度に打ちのめされ、試乗を終えてショールームに戻ってきた私の頭の中で、新たな計算が始まってしまいました。

「待てよ……。パナメーラにいく覚悟をするなら、ベースモデルの『4 E-ハイブリッド』だけで満足してしまって本当にいいのか?」

もちろん、3,000万円を余裕で超えてくる「ターボ系(Turbo E-ハイブリッドなど)」は、私の財布の身の丈に合わない完全な予算外。そこはハナから除外できる。問題は、その手前にある絶妙なラインナップです。

まずは、『4S E-ハイブリッド』。 ベースの「4 E-ハイブリッド」と同じV6 PHEVでありながら、システム出力は一気に544馬力へと跳ね上がります。パフォーマンスという点で見れば、ベースモデルを置き去りにするのはもちろん、「GTS」すら凌駕する圧倒的な駿足です。

しかしながら、悩ましいのが『GTS』の存在です。

環境性能やシームレスなモーターアシストといった現代の正論をすべてねじ伏せるような、「ピュアV8ツインターボ(500馬力)」の咆哮。

電気の静寂をスマートに愛する一方で、あのV8が目覚めるときの腹に響く重低音や、高回転域でクランクシャフトがハミングするような官能性。なにより、クルマ好きなら誰もが「いつかは」と人生のリストに書き留めているはずのV8エンジン。そのロマンの結晶が、このGTSにはそのまま残されているのです。

■ 新たなラビリンスへ、そして「仕様」という名の壁

「4Sの圧倒的な数値」と「GTSのV8というロマン」。 上を見出したらキリがないポルシェの底なし沼に、一時は完全に引きずり込まれそうになりました。

しかし、もう一度冷静に、さっき試乗した「4 E-ハイブリッド」の感覚を思い出してみます。

日常は完全なEVとして静粛の極みを尽くし、高速道路ではV6ツインターボと 8速PDKが極上のGTカーとしてのリズムを刻む。システム出力470馬力、0-100km/h加速4.1秒。……冷静に考えて、日本の公道のどこでこれ以上のパワーが必要だと言うのでしょうか。この「4」が持っている、日常の快適性とポルシェとしての官能性のバランスこそが、今私が求めている「物差し」に一番ピタリと、美しく収まる気がする──。

そう、スペックの面では、間違いなく「4 E-ハイブリッド」で大正解のはずでした。

ところが、世の中そう上手くは転がりません。目の前にある店頭在庫車のスペックシートを眺めていた私の指が、ある一行の前でピタリと止まりました。

■ インテリア:パーシャルレザー。



それは、私のクルマ選びの基準において、「どうしても、これだけは受け入れられない」という決定的な要素でした。

パーシャルレザー(標準仕様)ということは、当然ながらダッシュボードは革張りになりません。まあ、そこまではまだ許せる。問題は、ポルシェのパーシャルレザーが「エンボスレザー(型押し革)」だという点です。シートに触れた瞬間、あの独特の硬さとざらついた風合いが、どうしても許せない。

思い返せば、M4カブリオレでも、まさに同じような部分で頭を悩ませていました。 M4はシートこそ上質な革が張られているものの、ふと目を移すと、それ以外の部分に実用車然とした「本革風型押しプラスチック」の質感が残っていて、ロングドライブの最中にフッと現実に引き戻されるような、小さながっかり感を覚えていたのです。

グランドツアラーとしての圧倒的な性能や、長距離をどこまでも疲れずに走れるキャビンの快適性を求めたとき、こうした「五感に触れるインテリアのクオリティ」に少しでも妥協があると、後からどれだけ素晴らしい走りを体感しても、ずっと心に引っかかりを残してしまう。それは今まさに身を以て経験していることでした。

だからこそ、次の相棒となるパナメーラ4 E-ハイブリッドを、ただ「即納だから」「条件が良いから」という理由だけで素直に選ぶわけにはいかない。あの型押しの風合いを毎日視界に入れ、受け入れられるかと言われれば、答えは明確に「否」です。

スペックは完璧、だけど内装の仕様がどうしても譲れない。 出口が見えかけたはずの私の脳内コンフィギュレーターは、この「内装の風合い」という現実の壁を前に、さらに一段と深い泥沼の底へと引きずり込まれていくことになります。

■ そうなると、話はあの「絶対王者」にまで飛び火するわけで。

せっかくパナメーラに行くのなら、五感に触れるすべてが最高に心地いいクオリティで満たされていてほしい。内装は絶対にフルレザー(それもしっとりしたスムースレザー)だし、あの路面の凸凹を消し去るという超ハイテクサスペンション「ポルシェ・アクティブライド」も外せない。

そんな風に「1ミリも妥協しない理想のパナメーラ」を頭の中で組み立てていくと、当然ながら、好条件の店頭在庫車なんかじゃ収まらなくなります。本国へフルオーダー一択。オプションは雪だるま式に膨れ上がり、総額はとんでもない大台へ……。

で、そこでハッと我に返りました。

「……待てよ。そこまでパナメーラに全力を突っ込むとしたら、ガレージのアレ、どうする?」

そう、我が家の長距離移動を一手に担っている絶対王者、レンジローバー・スポーツの存在です。

あの上質なインテリアと、どこまでもフラットで疲れない乗り心地。長距離ツアラーとしてこれ以上の相棒はいないと全幅の信頼を置いているクルマです。

でも、もし一切の妥協を排した完璧な仕様のパナメーラ4 E-ハイブリッドを迎えるとしたら。 街乗りは完全なEV、高速ではPDKが本物のギアを刻み、アクティブライドが極上のフラットライドを見せるポルシェの4ドアサルーン。キャラクター的にも、予算のバランス的にも、レンジローバー・スポーツを手放す(=入れ替える)ということになります。

タイカンの即納車をどうするかって話から始まったはずなのに、気づけば「パナメーラをフルオーダーして、レンジローバー・スポーツと入れ替えるのか!?」という、ガレージの大改編計画へと突入してしまいました。

英国の最高峰SUVか、ドイツの最新PHEVサルーンか。 ここに来て、絶対に妥協できない本当の戦いが始まってしまいました。

■ とはいえ、のんびり半年も待てない私。

理想の仕様を求めて本国フルオーダー……と頭では分かっていても、ここで私の最大の弱点が頭をもたげます。

そう、私は「欲しいと思ったら、のんびり半年も車を待てない性格」なのです。

そこからは、画面に齧り付いて全国のポルシェディーラーの即納在庫を一斉にディグる時間が始まりました。しかし、世の中そんなに甘くありません。私が求める「スムースレザーのフルレザー内装のE-ハイブリッドかつアクティブライド」という条件を満たす完全な新車在庫はゼロ。出てくるのは、各ディーラーがデモカー(試乗車や展示車)として抱えている登録済みの個体ばかりでした。

それでも必死に探していくと、お目当ての「4 E-ハイブリッド」のデモカーの中に、私の希望(フルレザー仕様)をギリギリ満たす車種がいくつか見つかったのです。

「お、これならいけるか……?」

画面を前にして、一瞬テンポが上がりました。でも、そこでまた、もう一人の自分が冷ややかに囁くのです。

「ちょっと待て。今回もしパナメーラに行くとしたら、あのレンジローバー・スポーツとM4カブリオレの2台を一気に手放して、これ1台に集約する大勝負なんだぞ? 本当に『4 E-ハイブリッド』のデモカーでハンコを押して後悔しないか?」

2台分の価値を1台に凝縮するなら、やっぱり「GTS」をも凌駕するハイパフォーマンスの「4S E-ハイブリッド」にするべきじゃないか? いや、それならいっそ、いつかは乗りたいリストの筆頭であり、絶滅危惧種のロマンそのものであるV8の「GTS」に突っ込むべきなんじゃないか!?

「4 E-ハイブリッド」で落ち着きかけたはずの波が、一気に「GTS」の大波となって押し寄せてきた、その時でした。

ネットの海のさらに深いところで、私は「それ」を見つけてしまったのです。

それは、ポルシェジャパンがGTSの初期導入の際に、自ら趣向を凝らして仕立てたと思われる仕様の「パナメーラ GTS」。

ケイマンレッドの外装に内装はブラックのRACE-Texに赤ステッチといった、これまでの「GTSの記号性」とは明らかに一線を画す、ポルシェ自らが「こういう仕様のGTSはいかがですか?」と大人の贅沢なライフスタイルを提案してくるかのような、特別な佇まいを纏った個体でした。

ディーラーが予算や売りやすさを考えて発注した在庫車とは、発想が根本から違います。まさか、M4の「型押しプラスチック」にがっかりし、ポルシェの「エンボスレザー」に頭を抱えていた私の前に、インポーター自らがこれ以上ない回答を仕込んだV8のGTSが、現物(しかも即納!)として静かに佇んでいるなんて。

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