物理法則の崩壊。ポルシェアクティブライドに心を奪われた日

 最近、日本でもいよいよ受注が始まったフル電動SUV「カイエン・エレクトリック」。レンジローバースポーツのリプレイス候補としても気になりますし、さらには、あの巨体にポルシェアクティブライド(PAR)が載ると聞いて居ても立ってもいられず、先日、ポルシェディーラーへ足を運んできました。

すると営業氏から嬉しい提案が。

「カイエンEVに用意されるアクティブライドを積んだタイカンがありますので、まずは普段乗りで体感してみてください!」

ここから、これまでの車の常識を根底から覆す、とんでもない体験が始まるのですが……実はその魔法は、車に乗り込む前からすでに始まっていました。

乗り込む前から始まる「おもてなし」

営業氏に案内されてタイカンに近づき、ドアハンドルに手をかけたその瞬間です。

低いスポーツサルーンのはずの車体が、目の前で「スッ」と、文字通り一瞬で50mmもリフトアップしたのです。

あまりの素早さと静かさに一瞬我が目を疑いましたが、これこそがアクティブライドの機能の一つ。乗員がスムーズに乗り降りできるよう、車が自ら腰高になって迎え入れてくれる「コンフォートエントリー」です。

エアサスが時間をかけて「ウィーン」と上がるような牧歌的な動きではなく、一瞬で立ち上がるその挙動に、乗る前から「これはただ者ではないな」とド肝を抜かれました。実際、低いシートへ滑り込むのが驚くほど楽。このスマートな演出だけで、一気に期待値が跳ね上がります。

デフォルトの「ノーマルモード」のまま敷地を出て、最初の交差点をいつも通りに曲がった瞬間に、その予感は確信へと変わりました。

交差点を曲がった瞬間「脳がバグる」

曲がった瞬間、今度は脳の理解が追いつかなくなりました。

車体がまったく、外側に傾かない(ロールしない)のです。

どんなに優秀な高級サルーンやスポーツカーでも、カーブでは遠心力でジワリと車体が傾き、ドライバーの身体にも横Gがかかるのが物理の常識。しかし、この車は頑ななまでに「水平」を維持します。まるで路面に敷かれた見えないレールの上を、磁気浮上して滑り抜けていくような感覚です。


さらに面白いのが、画面のメニューで設定をオンにすると作動する快適機能。

なんと、バイクやスキーヤーのように、コーナーの「内側」へ車体が自らスッと傾くのです。これによって乗員にかかる遠心力が劇的に相殺されるため、カーブを曲がっている最中なのに、身体が驚くほど揺さぶられません。

加速の瞬間にフロントが浮いたり、ブレーキを踏んだときにノーズが沈んだりする前後の揺れ(ピッチング)も、このノーマルモードでは完璧に打ち消されていました。

アヒルの水掻き、あるいは、魔法のじゅうたん

最も感動したのは、日常域での荒れたアスファルトや段差を通過したときのいなし方です。

路面の凸凹に合わせて大きな21インチタイヤと足回りが激しく上下に動いているのは想像できるのですが、しかし、キャビン、つまり私の視線や頭はピタッと止まったまま。衝撃を「硬さ」でいなすのではなく、サスペンションが1秒間に13回という超高速で自ら伸び縮みして、凹凸を完全に相殺しているのだとか。

まさに、下半身は必死に仕事をしているのに上半身は悠然としている「アヒルの水掻き」。路面のざらつきを一切伝えないその走りは、文字通り「魔法のじゅうたん」でした。

電気だからこそ到達できた世界

この魔法のような足回りは、EVやPHEVが持つ強大な「高電圧バッテリー」の電力があって初めて駆動できるシステムなのだそうです。ガソリン車の12Vや48V電源では、この超高速かつパワフルな油圧ポンプを動かすエネルギーを到底賄えないのだとか。

環境対応のためだけでなく、電力を「日常の快適性と走りの次元を突破するため」に使い切るポルシェの飽くなき追求の姿勢には、ただただ圧倒されます。

移動のストレスを極限までゼロにする「圧倒的なフラット感と快適性」。

それでいて、ステアリングを切ればポルシェらしい寸分の狂いもない正確さで矢のように進む。


当初はカイエンEVの情報収集に行ったはずが、今や「あの魔法の足回りを手に入れたら、どんなカーライフが待っているのか」と期待で胸がいっぱいです。

一度あのフラットな世界を知ってしまうと、もう普通のサスペンションには戻れないかもしれない。ドアを開けた瞬間のサプライズから始まった、心地よい衝撃に打ちのめされた一日でした。



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